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薬学部

田中先生ピックアップ

「薬を創り出す仕事、創薬化学」
への取り組み

田中 明人 教授(創薬化学)
「薬を創り出す仕事、創薬化学」とはどのような仕事ですか?
合成実験室風景
遺伝子操作実験室風景

みなさんが病気にかかった際、薬を使われることと思いますが、一体薬剤の中にはどういった薬が入っているのでしょう?その多くは2つに分類されます。1つは古くからの薬のイメージである、天然の動植物から抽出加工された薬、いわゆる生薬、があります。生薬の場合、多くの場合は、昔からの経験から使われるようになっていますが、その有効成分が厳密に特定されることが少なく、どちらかというと複数の有効成分のハーモニーで効果を発揮しています。一方、多くの製薬企業が ”創薬”という単語を念頭に置き、作り出してくる薬があります。ここでは、最新のライフサイエ ンス成果をベースに、病気のメカニズムを解析し、特定の薬理作用をめざし多くの誘導体を合成します。その薬理作用を評価選別し、最終的に1つ化合物を医薬品として作り出しています。

つまり 、製薬企業における”創薬”とは、たった1つの化合物を創出してくることになります。このタイプの薬では薬剤の中に有効成分は基本的にたった1種類のみが含まれており、この1種類の化合物を生み出すことが出来るかどうかで企業価値が左右されており、世界中で最も知的財産の集約された 製品と呼ばれています。一方、過去に比べ創薬の困難性が年々増し、創薬に多額の資金と期間を必要としていることはみなさんも聞かれたことがあると思います。近年、”ゲノム創薬”など新しい投資を含め、各企業とも少しでも効率的に創薬研究を推進する努力を傾注しています。また、医薬品創製能力が新しい国家の重要な知的財産として国力を左右するという考えから、国家プロジェクトにおいても”創薬”と言う単語が一つのキーワードとなり多額の投資が行なわれています。

教授はどのようにして、創薬に興味をもたれたのですか ?
生化学実験室風景

私は大学時代、分子間相互作用をコンピュータで計算し研究しておりました。その中で偶然ですが チラミンという生理活性物質の構造が溶けている溶媒の種類によって大きく変化することに出会いました。みなさんはもう良くご存知のように、一般に生理活性物質が体内にある特定の薬物受容体と呼ばれるポケットにピッタリと合致することによって薬理効果を発揮していますが、このぴったり合致するためには生理活性物質は特定の構造をとる必要があります。そして、この特別な構造をうまく再現することによって、化合物の活性を上げることも下げることもできることを知り、何とかその薬理効果を自分でデザインしてみたいという夢を抱きました。

創薬に取り組まれて良かったと思えたことを教えてください。

修士課程修了後に藤沢薬品工業の研究所に1985年に入社しましたが、当時の創薬化学はまだ各合成担当者の「経験とカン」が中心で、私のように計算機を使って薬をデザインすることはあまり行なわれていませんでした。しかし、当時の研究トップが、このまま「経験とカン」頼りでは規模の大きい海外企業と勝負できないと判断し、積極的にSBDD(Structure based Drug Design、分子構造に基づいた薬のデザイン)と今では呼ばれる私の手法に協力してもらいました。しかし、一方で計算だけしか経験の無い私には「机上の空論だけでは創薬は無理なので、まず合成を学びなさい」との厳命の元、合成を一から叩き込まれました。

2年間ほど厳しい修行をなんとかくぐりぬけた頃(今ならきっと”苛め”と呼ばれる修行が許された時代)、幸運なことに私が合成した化合物が社内の厳しい評価をパスし臨床開発候補に選択され(FR122047、血小板凝集阻害剤、現在選択的COX1阻害の試薬として販売されています)、チームを任されるようになりました。そして、その後実際にコンピュータを用いデザインした化合物(FK633)を創出することが出来ました。FK633は最終的には薬にはなりませんでしたが、臨床試験の中で何人かの患者さんから” このFK633を服薬したお陰で病気が改善した”、と言う言葉を頂いたという話を関係者から聞いたときには、本当に涙が出そうなくらいうれしく充実した気持ちになったことを今でも覚えております。
ところで、みなさんはシード化合物(原型の薬物:左側)のどこに注目し新しい薬物FK633( 右側)をデザインしたか想像つきますか?

SBDDを用い論理的にデザインされたFK633
アフィニティ樹脂を用いたターゲット探索研究
薬剤師をめざす学生へのメッセージをお願いします。
リノール酸をシード化合物としてSBDDを用いデザインされたDCP-LA(兵庫医科大学との共同研究)

現代の創薬化学には大きく分け、1)創薬ターゲットを見出す段階、2)そのターゲットに有効な効果を示すシード化合物を探す段階、および3)実際に薬になる化合物をデザインし、合成する段 階に分けられます。この中で現在私の研究室では、長年の製薬企業での研究経験をベースとし、1 )創薬ターゲットを見出す段階および3)実際に薬となる化合物をデザインし、合成する段階に取り組んでおります。

具体的には、前者においては「独自に開発したさまざまな技術をベースとし、広範な生理活性物質のターゲット分子をアフィニティ樹脂によって同定し新たな創薬ターゲットとして開発すること」、後者については「記憶力を改善し、認知症の患者さんの福音となるべく治療剤の創出」に取り組んでおります。 是非みなさんの創薬を通じた自己実現の発現に貢献したいと思っておりますので、一度私どもの研究室に遊びに来ませんか?!お待ちしております。そして、是非一緒に創薬の感動を共有しましょう。

田中明人 教授のプロフィール

  • 昭和58年3月 大阪大学薬学部製薬化学科卒業
  • 昭和60年3月 大阪大学大学院薬学研究科修士課程薬品化学専攻修了
  • 同年4月  藤沢薬品工業(現アステラス製薬)入社 中央研究所化学研究
  • 平成4年3月 米国ハーバード大 S.L.Schreiber研究室留学
  • 平成14年1月 (株)リバース・プロテオミクス研究所 化学部門長
  • 平成18年4月 アステラス製薬 主席研究員
  • 第二種情報処理技術者(昭和57年3月)
  • 薬剤師免許取得(昭和58年9月)
  • 薬学博士(平成7年4月、大阪大学)
  • 専門:創薬化学(特に理論的ドラッグデザイン、コンビナトリアル化学)、ゲノム創薬(特に Chemical genetics)、生物有機化学、分子生物学、量子化学、情報科学
  • 趣味:研究(好きでやっています)、読書、博物館めぐり、散歩、寝ること。