メニュー
閉じる
薬学部

青木先生ピックアップ

海に潜ってクスリを探す。
-医薬シーズ化合物を自然界に求めて-

青木 俊二 教授(天然薬物学)
「海に潜ってクスリを探す」とはあまり想像出来ないのですが、
どういうことなのでしょう?
海中での採集風景。ちなみに、モデルはご自身だそうです。1回のダイビングで約1時間潜るそうです。

みなさんは、“自然由来のクスリ”、“天然薬物”というと、どういうものを想像されるでしょうか?

多くの学生さんは、生薬・漢方薬をイメージされるのではないでしょうか。また、近年のブームの影響で健康食品・サプリメントみたいなものを思い浮かべられる学生さんも少なくないかもしれません。そして「自分は、そういうものは飲んでいないから、“天然薬物”とは関係ないな。」と思ったのではありませんか?しかし実際は、みなさんが普段何気なく使っている薬局で買ったカゼ薬の成分や救命救急室を舞台にした某有名テレビドラマの中で使われているクスリが植物に含まれている化合物、すなわち“天然薬物”だということをご存じだったでしょうか。“天然薬物”は、意外とみなさんの身近で活躍している医薬品そのものなのです。

1981~2002年に世界で認可された877の低分子化合物型新薬のうち61%が天然物に関連する化合物であるとの報告があるぐらい、化学合成の技術が著しく発達した今日でも“天然薬物”は医薬品開発において重要な役割を担っています。そのような背景から、私は、これまで自然界の動植物から「クスリ」になるような作用をもつ化合物を探すという研究を行ってきました。自然界の動植物の中でも特に注目したのが、「海洋生物」です。生薬・漢方薬を例に挙げるまでもなく、陸上の動植物は「クスリ」として使われてきた歴史も長く、有効成分が解っているものも少なくないです。

一方、海洋生物は、膨大な数の生物種が存在するにもかかわらず魚介類がもっぱら食用として利用されていただけで、医薬資源として研究されはじめたのは最近です。そして、近年の研究で、海洋生物の中には陸上の動植物とはまったく異なる思いもよらない形や作用を持つ化合物が含まれていることがわかってきています。私は、「海綿」や「ホヤ」といった下等な海洋生物の成分の中から、医薬品になるような作用を持つ化合物を探しています。

青木教授が研究対象にしている海洋生物。左が「海綿」、右が「ホヤ」。
色も形も様々で、数千種もの種類があるそうです。
青木教授は、なぜ自然界から“クスリ”を探そうと考えたのですか?

子供の頃から、からだの仕組みやクスリが何で効くんだろうという興味はすごくありました。幼い頃は、山や池でムシやカエルを捕まえてきて解剖(分解?!)もよくしていましたし、飼い犬のご飯にこっそりワインを少量入れて「ほろ酔い犬」にしてしまったこともありましたね(笑)(動物愛護の観点から反省!)。その頃はもちろん意識していませんでしたが、今にして思えば子供の頃から好奇心旺盛で、また、自然に慣れ親しんだことが、今の研究に結びついてるのかも知れません。また、これも子供の頃の話ですが、私はひどい喘息(ぜんそく)の発作持ちで、苦労をした経験があります。

青木教授が発見したがん多剤耐性克服物質agosterol Aの化学構造。現在、実験用の試薬として販売され、多くの研究者に使われているそうです。

発作を抑えるのが大変で、ひどいときにはステロイド剤のようなきつい薬でも効かないこともありました。そんな時に助けられたのが、漢方や鍼灸といった中国医学の力でした。漢方薬には、いまでもお世話になっています。(西洋医学の医薬品が効かないと言っているのではないので、くれぐれも誤解のないようにお願いしますね。)

こんな経験からか、大学も医学部か薬学部に行きたいと考える様になり、薬学部に進学しました。自然と研究室も「生薬学」の研究室を選んでいましたね。そこで生薬の作用や有効成分についての研究をする様になりました。それが発展して、現在の「海洋生物からクスリを探す」という研究につながっています。もちろん、現在は大学で教鞭をとる身ですから、俗に言う「天然成分は何でも身体に優しくて良い」的ないい加減な考え方にはまったく共感できませんが、研究すればするほど、「自然のチカラってすごいな」と感じることはあります。

具体的な研究内容について教えて下さい
船上での風景。機材をセットして、いざ海中へ。

研究テーマは、「天然素材からの医薬シーズの探索」です。特に、海洋生物に含まれる成分の中から抗がん剤になるような化合物を探しています。現在使われている抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞も殺してしまうことから副作用が強く、問題になっています。そこで、よりがん細胞選択的に作用する抗がん剤の開発が課題になっており、私も最新のがん研究の成果に基づいた新しい副作用の少ない抗がん剤になるような化合物を探しています。

残念ながら、これまでに医薬品として使われるような化合物の発見には至っていませんが、私が発見した化合物のいくつかは、その特徴的な作用から実験用の試薬として販売され多くの研究者に使われています。もちろん「海に潜ってクスリを探す」というからには、ウエットスーツを着て海に潜り、自分で海綿などのサンプルを採集してきます。

ある年、採集で使った現地のボート。はじめて見たときは、あまりの小ささにショックを受けたとか。

日本では、沖縄近海での採集が多かったのですが、ここ8年ぐらいは、毎年、夏にインドネシアまで出向いて採集を行ってきました。「夏にインドネシア」なんていうとバカンスみたいに聞こえるかも知れませんが、現地での作業と生活はとても過酷で、数年前に一緒に連れて行った学生さんは、日を追う毎に「無口」になっていきました(笑)。現地でのエピソードは尽きないですね。(お聞きになりたければ、いつでもどうぞ。)

海綿などの材料採集からはじまり、材料に含まれる成分から作用のある化合物を見つける実験、さらにはその化合物の作用を詳しく調べる実験まで、基本的にすべてを自分でやります。「教授の専門は何ですか?」と良く聞かれますが、自分にとって研究に必要な分野は“すべて専門”だと思っています。

薬学部医療薬学科をめざす学生さんへメッセージをお願いします。

みなさん =“IT世代”の人達は、大量の情報を簡単に手に入れることが出来ますが、それには良い面と悪い面の両方があると私は思います。情報(知識)は多いに越したことはありませんが、情報が一人歩きすることは大変危険です。すなわち、それが高じると、その情報があたかも自分の体験であるかのように感じてしまっているケースがあるということです。私のモットーは、「失敗を恐れず、何でも自分で実際にやってみる!」ということです。端から見ていればとても簡単に見えることが、やってみるとそうはいかない。(自転車に乗った経験がない人が、自転車に乗っている他人を見て難しそうと思うでしょうか?)

兵庫医療大学は、基本的に「臨床現場で活躍できる医療人」の育成をめざして設立された大学です。薬学部でも、当然そのような薬剤師の養成をめざしています。私のキャリアは、基礎研究が中心で臨床現場での経験はありませんが、基礎研究を続けていく中で本当にさまざまな体験をしてきました。(研究に関すること以外も含めて。)私は、是非ともその経験をみなさんに伝えていきたいと思っています。みなさんが、決して「バーチャルの海」に溺れず、実体験に支えられた確かな知識と技能を身につけ、そして心の通う人間関係を築ける薬剤師になるための教育を力及ばずながらできればいいなと思っています。「体験こそ、実力なり!」

朝日新聞 コラム波に連載されました。

記事のPDFを載せました。是非お読みください。

  1. 1.2008.6.2付
  2. 2.2008.6.16付
  3. 3.2008.6.23付
  4. 4.2008.6.30付

青木俊二 教授のプロフィール

  • 平成元年3月 京都薬科大学生物薬学科卒業
  • 平成4年3月 京都薬科大学大学院修士課程修了
  • 平成4年4月 大阪大学・大学院薬学研究科博士課程入学
  • 平成5年4月 大阪大学・大学院薬学研究科・助手
  • 平成15年1月 大阪大学・大学院薬学研究科・講師
  • 専門は、天然物化学、生物有機化学、薬理学、分子生物学を含む天然薬物学全般
  • 平成15年度日本生薬学会奨励賞受賞
  • 趣味は、車(の運転)、テニス、ダイビング(仕事?)