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福祉国家における看護業務と介護業務の役割分担とは?
看護の役割を明確にしたい・・・
-竹田千佐子教授がデンマーク研修で感じられたこと-

竹田千佐子教授は何故、デンマークの研修に行こうと思われたのですか?
コペンハーゲン:人魚姫の像
COPENHAGEN:人魚姫の像
皆さんは、朝鮮王国の中期(15世紀末から16世紀前半)の宮廷が舞台となった 「宮廷女官チャングムの誓い」というドラマをご存知でしょうか? この中で、主人公(史書に名前が出てくる医女だそうです)チャングムが、脈診をしているシーンがあったのを覚えていらっしゃるでしょうか?
「川に木が流れるような脈だったでしょう?」「沈んでいるようでいて力があり、脈打っているようでいて、落ち着いている、そういう脈よ。」
と流暢に説明しながら、脈診と視診をもとに状況を判断しているのです。これを観たときに、驚異的な刺激に襲われました・・・。私が脈拍測定や血圧測定をした時に、これだけの語彙をもって表現できるでしょうか?これだけの自信をもって語れるものがあるのでしょうか?これが「私の看護よ。」と胸を張っていえるものは、いったい何なのでしょうか?非常なショックでした。日本では、名称独占・業務独占だと法の改正が行われていますが、では、福祉国家では看護業務と介護業務はどのように役割分担し、その中で看護はどのような役割を担っているのだろうか、そして教育はどのように行われているのだろう・・・・・?
看護の役割を明確にしたい・・・・これが、私をデンマークに向かわせた理由です。

 

デンマークの研修って、どんな事をするのですか?
訪問したご自宅と日常的に使用されている自家用車
(1)訪問したご自宅と日常的に 使用されて
いる自家用車
高齢者デイケアセンターのトイレ
(2)高齢者デイセンターのトイレ
これまで使った家具とご家族の写真に囲まれた部屋
(3)これまで使った家具とご家族の写真に
囲まれた部屋
高齢者センターフロア(集いの場)
(4)高齢者センターのフロア(集いの場)
研修は、アンデルセンゆかりの地オーデンセのあるフュン島で行いました。日欧文化交流学院の千葉忠夫先生のもとで講義を受けたり、研修(主に見学です)をさせていただいたり、学院生の皆さんが料理してくださった多国籍料理をいただいたりしました。楽しく・充実した時間を過ごすことができました。研修で訪問させていただいたのは、(1)在宅重度身体障害者、(2)高齢者デイセンター、(3)認知症グループホーム、(4)高齢者センターでした。写真(1)は、私たちが訪問した在宅重度障害者のご自宅です。在宅ケアには、訪問サービスや家事援助、パーソナルヘルパーの制度があります。私たちが訪問したクライエントは、自分で選んだ5人のヘルパーによる24時間介護を受けられており、電話交換手としての仕事もされていました。写真の専用リフト車に自分の車椅子で移動し、出かけていく生活をされていました。デンマークでは、特別養護老人ホームを作らず、施設ではない住宅が集まったケア付き集合住宅建設へと形を変えています。これは、誰もが住宅を望む、老人を病人扱いしない、特別養護老人ホームの運営費が高くつくという理由があるからです。30年前に設立されたプライエム(高齢者介護施設)でさえすべてが個室であり、シャワーとトイレがついていました。そこは施設ではなく住宅であると言う考え方が徹底されているのです(入居者とは呼ばず、住民と称していました)。写真(2)は、どこの住宅(日本では施設と称していますが)でも見られるトイレですが、介護者が2人入れるスペースが義務化されており、悪臭などはまったくありませんでした。“人の住むところに悪臭なし”が実行されていました。「個人の生き方を尊重する福祉」を銘打つ表れでしょうか、写真(3)に見られるようにこれまで使い慣れた家具を持ち込み、落ち着いた環境(写真(4)(5))の中で生活が送られていました。

 

教授がその研修に行って良かった事や感じられた事は?
高齢者センターのフロア
(5)高齢者センターのフロア。(右側には住民の皆さんの個室があります。)
デンマークは、高福祉国家であるとともに高税(所得税 平均50%、消費税25%)の国家ですが、地方分権が進んでおり手厚い福祉があるため、国民は“高い税金”を負担とは思わず、保険・貯蓄とみなし、概ね満足しているそうです。
研修地デンマークは、「老人」を「第三の人生」と位置づけ、この第三の人生を全うするため、“生き方の自己決定”、“生活の継続性の尊重”、“自己能力の開発”を高齢者の生活支援に関する3原則として掲げた、まさにノーマライゼーションの徹底した国でした。私の研修目的は、看護が、福祉国家ではどのような役割を持ち、在宅ケアに関連した専門職種の教育課程と役割分担がどのようになっているかを明らかにしたいということでした。しかし、研修初日には、この疑問の愚かさにすぐに気づかされました。
「個人尊重」の理念が具現化され、実際に行動されている実情は、日本との制度の違いというより、文化と歴史を背景とした個人の考え方が違うということを実感させられました。日本の医療は、「個人情報保護法」だ「インフォームドコンセント」だと声高に叫び、入院時には、サイン会のように多くの書類にサインを求めます。これは、患者個人の意思を尊重する象徴というより、医療者を刑事訴訟から守る唯一の事実認定としての色彩が濃いものではないだろうかと改めて認識した次第です。
最初に訪問させていただいた在宅ケアにおいて、重症呼吸障害を有するクライエントが自分の意思でヘルパーを決定し、自分の意思に沿わないときには解雇する・・・ヘルパーを採用するときの条件は「私のことを考えてくれ、私のために働いてくれる人よ。」と言い切る姿勢には、気持ちよささえ感じてしまいました。
日本では、厚生労働省(2005年)が、ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)以外の在宅患者や障害者にもヘルパーによるたんの吸引を認めることを都道府県に通知し、かかりつけ医や訪問看護師がヘルパーに吸引方法について指導すること、家族以外の者がたんの吸引を行なうことについて文書で本人の同意を得ること、吸引の範囲を口鼻腔内・気管カニューレ内部までの気管内吸引とすることなど一定の条件を示しています。このような情勢の中で、医療専門職における私たち看護職者に課せられたものは、何なのでしょうか?

 

看護学部看護学科を目指す学生さんへメッセージをお願いします。
ノーマライゼーション発祥の地であり、個人を尊重する国デンマークについては、これまで文献や講演会などをとおし知識を重ねてきたつもりでした。でも、これらはあくまでも“情報”であって、“知識”として根付いたものではないことを改めて認識させてくれたのが、今回の研修でした。あえて、私たちは病院見学ではなく、“生活”の場を通して医療福祉の研修をすることを選択いたしました。人々の生活の状況を目の当たりにしてこそ、理解できるものがあると思ったからです。わずかな日数の研修でしたが、これまで自分の言葉で表現できなかったことを、自分の言葉として学生の皆さんに語れるような、そんな気がしています。
研修ばかりでなく、“旅”することで異国の文化や自然に触れると“豊かな気分”になれるのはなぜでしょうか?自分自身の顔の緊張がとれ、なんだか優しくなれます。生活に疲れたら・・・旅行に行くことにしたいと思います。
右:ドイツライン川下り、左:アンデルセン記念館
写真左:ODENSE:アンデルセン記念館、写真右:ドイツライン川下りの一風景
竹田教授
竹田 千佐子 教授のプロフィール
  • 1972年4月  名古屋保健衛生大学衛生学部衛生看護学科入学
  • 1976年3月  名古屋保健衛生大学衛生学部衛生看護学科卒業(看護学士)
  • 1995年4月  福井大学大学院教育学研究科修士課程障害児教育専攻入学
    [テーマ 自閉症児におけるコミュニケーションの有用性について]
  • 1997年3月  福井大学大学院教育学研究科修士課程障害児教育専攻修了(教育学修士)
  • 1976年 4月  名古屋保健衛生大学(現 藤田保健衛生大学)病院
  • 1977年 4月  熊本赤十字病院
  • 1981年 6月  名古屋保健衛生大学(現 藤田保健衛生大学)衛生学部助手
  • 1986年10月  藤田保健衛生大学衛生学部講師(成人保健、成人看護法Ⅰ)
  • 1992年12月  静岡県立大学短期大学部看護学科助教授(成人・老人看護学担当)
  • 1998年 4月  福井医科大学医学部看護学科助教授(基礎看護学担当)
  • 2001年 4月  福井医科大学大学院医学研究科修士課程看護学助教授(基礎・地域看護学担当)
  • 2002年 4月  聖隷クリストファー大学看護学部教授(基礎看護学担当)
  • 2002年 4月  聖隷クリストファー大学大学院看護学研究科教授(基礎看護学分野担当)
  • 専門分野は基礎看護学領域
  • 日本看護科学学会、日本精神保健看護学会、日本病院管理学会、日本看護学教育学会、日本看護研究学会、日本死の臨床研究学会、日本生理心理学会に
  • 所属