「サポートグループ」って、どういった事をするのですか?
乳がんサポートプログラムのはじまり。
がん患者さんたちのクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を高めることをめざした「がんと共に生きる」ことを支えるプログラムのことをいいます。サポートグループでは、数人のがん患者さんと医療者(ファシリテーター役の看護師や心理療法士、医師など)でグループを作り、自分たちの悩みや不安をわかちあい、病気および治療に関する情報交換や、より良い生活が送れるような様々な工夫を共有しています。米国では1970年代からサポートグループに関する研究が活発にされてきており、情緒状態が改善され、患者さん個々の対処する力やQOLが高まるという効果が示されています。わが国では米国より20年遅れて1990年後半からサポートグループに関する研究の取り組みが始まり同じような効果が報告されていますが、研究数は非常に少ないのが現状です。
また、医療者が主体で運営するサポートグループとは別に「患者会」があります。患者会は、患者さんが主体になって患者さん同士で力を合わせて運営しているグループです。わが国では、サポートグループよりも患者会のほうがたくさんあり、ここ数年は患者さんと医療者が一緒に運営する形態のグループが増えています。現在、私は「乳がん女性のためのサポートプログラム」と乳がん患者さんと医療者で運営している「大阪QOLの会」という両方のグループに所属し、患者さんと共に活動しています。
「がんサポートグループ」に関心をもったきっかけをお教えください。
グループ終了後のスタッフ反省会。
1994年に文部科学省科学研究費補助金の助成を受けて「がんと共にゆったり生きる」プログラムの開発に一研究メンバーとして関わったことがきっけです。その当時、私は病院という限られた施設のなかでの看護師の経験しかありませんでしたので、この研究を通して多くのことを学びました。死と向き合わざるを得ないがん患者さんたちが家庭や職場でさまざまな葛藤や悲しみ、辛さを抱えながら社会生活していること、そしてそれに対する心理・社会的な支えを切に求めているということを肌で感じとり、がん看護の難しさや奥深さ、やりがいを実感しました。その一方で、私は「今まで入院しているがん患者さんの何をみてケアしていたのだろうか」と浅はかな看護を提供していた自分にショックを受けたことを今でも鮮明に覚えています。この頃のがん医療は、QOLやインフォームド・コンセントの社会的関心の高まりのなかでがん告知が急速に進んだ時であり、十分なサポート体制が整っていない状況でした。このような時代背景において、「がんと共にゆったり生きる」プログラムの開発は、画期的な取り組みでしたが、一方で医療者やがん患者さんから受け入れられるだろうかという多少の不安もありました。ある医師からは「がんは手術すれば100%完治するので、がんと共に生きるなんてナンセンスですよ」と言われ、またある患者さんからは「僕は胃がんでしたが、きれいにがんが取り切れたから完治すると先生に言われています。僕はがんと共に生きるつもりはありませんが、どんなものか興味があったので参加しました。」と挑戦的な口調で言われました。今でこそ「がんと共に生きる」という考え方は当たり前のように思われていますが、その当時このプログラムの名称に「がんと共にゆったり生きる」と命名した革新的で先駆的な私の恩師でもあった研究代表者に敬服しています。と少し話が横道に逸れましたが、現在「乳がん女性のためのサポートプログラム」と「大阪QOLの会」に所属して患者さんと共に活動している私の原点は、「がんと共にゆったり生きる」プログラムの研究にあるのです。
「がんサポートグループ」をやっていて良かったことについてお聞かせください。
一般市民向けに乳がんに関する啓発教育をしている様子。
「乳がん女性のためのサポートプログラム」には、2005年から関わっています。このサポートプログラムでは、「自分の歩調を大切に」という合言葉をもとに、乳がんをもつ女性が主体的に治療を継続しながら充実した生活を送ることができるように、お互いの体験をわかちあう場や乳がんに関する学習の場を提供しています。ある時、参加者の方から「知恵と元気と勇気をわかちあえて、本当に勇気づけられます。」と嬉しい感謝の言葉をいただきました。でも、実は主催者側の私たちも参加者から同じように‘知恵と元気と勇気’をいただいているのです。なぜなら、参加者の方々がお互いに悩みや不安をわかちあったり、励まし合ったりして自分たちの力で明るく元気になっていく姿はとても感動的であり、その参加者との交流のなかで私はいつもエネルギーをもらっているからです。また、参加者から提案されるちょっとした工夫や発見は、教科書や参考書には書かれていない、とても貴重かつ患者さんにとって一番役立つ情報なのです。私はいつも参加者からのちょっとした工夫や発見をすかさず自分の知恵袋に大切にしまい、次に同じように困った方がいらした時に体験者の知恵をもとにアドバイスをしています。
患者さん用貸し出し図書。
「大阪QOLの会」には2000年から参加するようになりました。この会は、ある一人の乳がん患者さんと医師が立ち上げた会であり、現在では患者さん5人と医療者6人で運営しています。毎回60人~70人の患者さんが集まってご自分たちの体験を共有したり、乳がんについての勉強会をしています。私は、この会への参加を重ねるうちに多くの患者さんと親しくなりました。ある時、日本の乳がん検診率の低さについて患者さんたちと話していると、ある方が「女性である以上は、誰でも乳がんになる可能性はあるのよ・・・。だから、乳がん検診を定期的に受けたほうがいいということを体験者としてみんなに、特に子供を抱えている若いお母さんたちに伝えたいわ・・・ 。一緒にそういう活動できないかしら」 と熱く語りました。このことがきっかけとなり、子供を抱えているお母さんたちを対象に乳がんの啓発活動を患者さんたちと一緒に行うという計画を立て、私は2006年度から文部科学省科学研究費補助金の助成を受け、現在この研究に取り組んでいます。 ある時私は、患者さんとの語りや関わりの中から学んだことを糧にして、自分の看護実践能力を高めたり、研究の着眼点や方向性を得ている自分がいることに気づきました。このように患者さんと共に語り学び合うことは、私にとって魅力的なことであり多くの気づきを与えてくれる貴重な機会なのです。
学生さんにメッセージをお願いします。
人間を対象とする医療職は、他の職業では味わうことのできない喜びや充実感を体験することがたくさんあります。しかし、その一方で自分の思うようにならないことも多々あり、時には逃げ出したくなることもあります。機械の操作はマニュアル通りにできても、人間を対象とする医療の現場ではマニュアル通りにいかないのが現状です。その場、その時に応じて常に自分で判断し、行動しなければなりません。適切な判断力、高い実践能力を身につけるためには、自分で考えて学び、多くの人との交流を持ち、共に語り合って大学生活を楽しみ、確実な知識と豊かな人間性を育むことだと思います。学生の皆さん、4年間あるいは6年間のなかで人との出会いを大切にして、患者さんに寄り添える医療者に育ってほしいと期待しています。
鈴木 久美 教授のプロフィール
- 1985年 群馬大学医療技術短期大学部看護学科卒業
- 1990年 聖路加看護大学看護学部(編入)卒業
- 1999年 聖路加看護大学大学院博士前期課程修了
- 2003年 大阪府立看護大学大学院博士後期課程修了
- 1985年~1988年 筑波大学付属病院勤務
- 1990年~1997年 聖路加看護大学(成人看護学)勤務
- 1999年~2005年 淀川キリスト教病院勤務
- 2005年~ 聖路加看護大学看護実践開発研究センター勤務
- 専門分野は成人看護学であり、現在は乳がん看護に関する研究に取り組んでいます。
- 日本私立看護系大学協会平成18年度看護学奨励賞受賞
- 日本がん看護学会、日本看護科学学会、日本乳癌学会、日本乳癌検診学会などに所属